1. | 外傷(トラウマ)体験とは |
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地震や戦争被害、災害、事故、性的被害など、その人の生命や存在に強い衝撃をもたらす出来事を外傷性ストレッサーと呼び、その体験を外傷(トラウマ)体験と呼ぶ。トラウマ体験となる外傷性ストレッサーには、次のような出来事などがある。
これらの外傷体験による精神的な変調をトラウマ反応と呼ぶ。トラウマ反応の多くは一過性に経過し、症状が軽く済む人も多いが、一部には、PTSD(Post Trumatic Stress Disorder 外傷後ストレス障害)と呼ばれる精神的後遺症が発症する。同じ外傷性ストレッサーであっても、その受け止め方や対処能力には個人差があり、ストレッサーに遭遇した全ての人にトラウマ反応が生じる訳ではない。 子供は、非常に危機的な状況であっても、事件を目撃せずに済んだり、大人に抱かれていて安心感があったり、保護者が落ち着いて行動していた場合、トラウマにはなりにくい。子供にとって、虐待、犯罪、いじめなど、人への信頼が損なわれる出来事は、極めて深刻な事態であり、その後の人生に大きな影響を及ぼすことがある。 また、外傷性ストレッサーに生活環境ストレッサーが加わると、PTSDの発症の可能性が高まるため、予防やケア活動においては、生活環境ストレッサーについても同様に配慮することが必要である。 |
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2. | 外傷(トラウマ)への心理的反応 |
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外傷体験によって、様々な心理的反応が生じる。これらの反応をトラウマ反応と呼ぶが、トラウマ反応は、異常な体験ではなく、極度の危険に巻き込まれた人ならば誰にでも生じる反応であり、「異常な状況に対する正常な反応」と考えられている。外傷体験がある場合、PTSDを予防することは重要な課題であるが、PTSDだけがトラウマ反応ではない。トラウマ反応では次のような様々な症状や変化が生じる。
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<子供がトラウマ体験後に示す反応> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
子供は、大人より感情を言葉で表現する能力が育っていないため、様々な身体症状や行動として現れやすい。子供のトラウマ反応として、次の様な症状や行動が生じる。
子供は、自我の機能が未発達であるため、周囲の人達の信頼関係に支えられた環境にいない場合、問題を発生しやすいため、注意が必要である。初期には問題がないように感じられても、時間が経過した後に不適応が生じることもある。 子供は、深刻な不安を抱えていても、一時的に、表面上はおとなしく、明るく行動することがある。気になることがあれば、落ち着ける場所で個別に確認する必要がある。 また、身近な家族や保護者、担任は、子供がつらい状況であることを認めたくない気持ちが働くために、子供の感じているストレスを軽度に見てしまう傾向がある。本人の話を良く聴き、周囲の人達からも情報を収集することが大切である。 |
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3. | トラウマ反応と心の病気 |
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トラウマ体験により、心身には様々な反応が生じるが、外傷体験のダメージが強いときや長期化する場合、また家族の怪我、財産の損失、失職などの生活環境ストレッサーが重なることにより、心の病気や社会生活に不適応な状態になることがある。
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4. | PTSD (Post Trumatic Stress Disorder 外傷後ストレス障害) |
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PTSD (Post Trumatic Stress Disorder 外傷後ストレス障害)は、次のような4項目に合致する症状が、発症後一ヶ月を経過しても生じているときに該当すると診断される。また、発症後一ヶ月未満であれば、ASD(Acute Stress Disorder急性ストレス障害)と診断される。
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心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post-trumatic Stress Disorder)診断基準
A: | その人は、以下の2つが共に認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある。 |
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B: | 外傷的な出来事が、以下の1つ(またはそれ以上)の形で再体験され続けている。 |
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C: | 以下の3つ(またはそれ以上)によって示される、(外傷以前は存在していなかった)外傷と関連した刺激の持続的回避と、全般的反応性の麻痺。 |
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D: | (外傷以前には存在していなかった)持続的な覚醒亢進症状で、以下の2つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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E: | 障害(基準B、C、およびDの症状)の持続期間が1ヶ月以上。 |
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F: | 障害は、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。 |
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PTSDチェックリスト 「IES-R(改訂 出来事インパクト尺度)」
お名前○○○○ | (男・女) | ○○歳 | 記入日 ○○○○年○月○日 |
下記の項目は、いずれも、強いストレスを伴うような出来事に巻き込まれた方々に、後になって生じることのあるものです。
「○○○○」に関して、この1週間では、それぞれの項目の内容について、どの程度強く悩まされましたか。当てはまる欄にをつけてください。(なお、答に迷われた場合は、不明とせず、最も近いと思うものを選んでください。)
1 | どんなきっかけでも、そのことを思い出すと、その時の気持ちがぶりかえしてくる | |||||
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2 | 睡眠の途中で目が覚めてしまう | |||||
3 | 別のことをしていても、そのことが頭から離れない | |||||
4 | イライラして、怒りっぽくなってくる | |||||
5 | そのことについて考えたり思い出す時は、なんとか気を落ち着かせようとしている。 | |||||
6 | 考えるつもりはないのに、そのことを考えてしまうことがある | |||||
7 | そのことは、実際に起きなかったとか、現実のことでなかったような気がする | |||||
8 | そのことを思い出させるものには近よらない | |||||
9 | そのときの場面が、いきなり頭にうかんでくる | |||||
10 | 神経が敏感になっていて、ちょっとしたことでどきっとしてしまう | |||||
11 | そのことは考えないようにしている | |||||
12 | そのことについては、まだいろいろな気持ちがあるが、それには触れないようにしている | |||||
13 | そのことについての感情は、マヒしたようである | |||||
14 | 気がつくと、まるでその時にもどってしまったかのようにふるまったり、感じたりすることがある | |||||
15 | 寝つきが悪い | |||||
16 | そのことについて、感情が強くこみ上げてくることがある | |||||
17 | そのことを何とか忘れようとしている | |||||
18 | ものごとに集中できない | |||||
19 | そのことを思い出すと、身体が反応して、汗ばんだり、息苦しくなったり、むかむかしたり、どきどきすることがある | |||||
20 | そのことについての夢を見る | |||||
21 | 警戒して用心深くなっている気がする | |||||
22 | そのことについては話さないようにしている |