統合失調症に共通する症状は、思考や行動、感情がまとまりにくくなることである。自閉や連合障害からくる脳の疲弊によって、一部の患者では特徴的な幻覚や妄想を発症する頻度が少なくない。また社会的または職業的機能の低下すなわち、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している。
認知、情動、意欲、行動、自我意識など、多彩な精神機能の障害が見られる。大きく陽性症状と陰性症状の二つがあげられ、他にその他の症状に分けられる。全ての患者が全ての症状を呈するのでないことに注意が必要である。
WHOによる国際的予備研究によれば、最も多く見られる症状は幻聴や関係念慮であり、患者の約70%に認められた。
陽性症状
陽性症状(Positive symptoms)とは、おおよそ急性期に生じるもの。妄想や幻覚などが特徴的である。
思考の障害
思考過程の障害と思考内容の障害に分けられる。総合的に診て自閉症と重複し、誤診されることもたびたびある。統合失調症の最大の特徴はこの自我意識面での思考の障害であるとされる。
思考過程の障害
• 話せない状況:思考に割り込まれると神経過敏や鬱状態になり、考えが押し潰されて、まとまらない話になってしまう。思考が潰れることで今までやってきたことは何だったのかという自己喪失に陥る。
• 的外れな応答:他人の質問に対し、的外れな答えを返すことがある。周囲の人間から、話をよく聞いていない人物と見なされることがある。
• 集中能力の喪失:テレビを視聴したり、新聞記事を読むことが困難となる。
• 異常なほどの思考・神経機能の使い過ぎ:思考や神経の安定性・リラクゼーションが保たれず、絶えず考え・思考が浮かんでくると訴える自生思考や相手に自分の考えが知れ渡っていると解釈し思い込ませられる思考伝播、自他の境界が曖昧になる境界障害などの通常ならばあってはならない思考によって障害・邪魔されるため、時間に関係なく睡眠が安心して落ち着いて普通にできなかったり、食物を食べても、思考や神経に栄養が奪われて、結果的に食べても体重が太れないといった体重の劇的な痩せや減量、顔の頬がすぐにこける、頭髪の細毛化、薄毛状態が引き起こされるケースもある。
抗精神病薬の服用によって、そうした敏感な熱思考状態や神経の過度の使い過ぎ状態がいくぶん緩和し落ち着くこともある。統合失調症は、単なる思考機能・神経の使い過ぎから起こる神経症レベルで説明がつくほど単純な疾患ではない。
重度の神経症・神経障害と同等レベルで解釈できるか否かは区別の判断が微妙に困難極まるものがある。勿論、統合失調症患者の精神症状と、強迫神経障害患者の神経症状とを比べた時、前者の方がはるかに症状が複雑で重いとされる今日の医学的な考え方・見解が肯定・是認できうるものと言える。
思考内容の障害(妄想)
被害妄想
妄想 (Delusions) とは、客観的に見てありえないことを事実だと完全に信じること。以下のように分類される。
• 被害妄想:「近所の住民に嫌がらせをされる」「通行人がすれ違いざまに自分に悪口を言う」「自分の体臭を他人が悪臭だと感じている」などと思い込む。
• 関係妄想:周囲の出来事を全て自分に関係付けて考える。「あれは悪意の仄めかしだ」「自分がある行動をするたびに他人が攻撃をしてくる」などと思い込む。
• 注察妄想:常に誰かに見張られていると思い込む。「近隣住民が常に自分を見張っている」「盗聴器で盗聴されている」「思考盗聴されている」「監視カメラで監視されている」などと思い込む。
• 追跡妄想:誰かに追われていると思い込む。
• 心気妄想:重い体の病気にかかっていると思い込む。
• 誇大妄想:患者の実際の状態よりも、遥かに裕福だ、偉大だなどと思い込む。
• 宗教妄想:自分は神だ、などと思い込む。
• 嫉妬妄想:配偶者や恋人が不貞を行っている等と思い込む。
• 恋愛妄想:異性に愛されていると思い込む。仕事で接する相手(自分の元を訪れるクライアントなど)が、好意を持っていると思い込む場合もある。
• 被毒妄想:飲食物に毒が入っていると思い込む。
• 血統妄想:自分は貴人の隠し子だ、などと思い込む。
• 家族否認妄想:自分の家族は本当の家族ではないと思い込む。
• 物理的被影響妄想:電磁波で攻撃されている、などと思いこむ。
• 妄想気分:まわりで、何かただ事でないことが起きている感じがする、などと思いこむ。
• 世界没落体験:妄想気分の一つ、世界が今にも破滅するような感じがする、などと思いこむ。
一人の統合失調症患者においてこれら全てが見られることは稀で、1種類から数種類の妄想が見られることが多い。また統合失調症以外の疾患に伴って妄想がみられることもある。関連語に妄想着想(妄想を思いつくこと)、妄想気分(世界が全体的に不吉であったり悪意に満ちているなどと感じること)、妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)がある。
また、上記の妄想に質的に似ているが、程度が軽く患者自身もその非合理性にわずかに気づいているものを「 - 念慮」という。
これら妄想症状は突発的に起こることもあれば、数週間をかけて形成されていくこともある。クレペリンは躁うつ病の特徴として迫害妄想をあげており、双極性でないことが診断に重要である。
知覚の障害と代表的な表出
幻視
幻覚 (Hallucination) とは、実在しない知覚情報を体験する症状。以下のものがある。
• 幻聴 (auditory hallucination):聴覚の幻覚
• 幻視 (visual hallucination):視覚性の幻覚
• 幻嗅 (olfactory hallucination):嗅覚の幻覚
• 幻味 (gustatory hallucination):味覚の幻覚
• 体感幻覚 (cenesthesic hallucination):体性感覚の幻覚
統合失調症では幻聴が多くみられる一方、幻視は極めて稀である。また、統合失調症以外の疾患(せん妄、てんかん、ナルコレプシー、気分障害、認知症など)、あるいは特殊な状況(断眠、感覚遮断、薬物中毒など)におかれた健常者でも幻覚がみられることがある。
幻覚を体験する本人は、外部から知覚情報が入っていると感じるため、実際に知覚を発生する人物や発生源が存在すると考えやすい。これらの幻覚の症状を説明するために、患者は妄想を形成しているのである。
そのため、「悪魔が憑いた」、「狐がついた」、「神が話しかけてくる」、「宇宙人が交信してくる」、「電磁波が聴こえる」、「頭に脳波が入ってくる」などと妄想的に解釈する患者も多い。
幻聴は、人によっては親切・丁寧であることもあるが、多くの場合はしばしば悪言の内容を持ち、患者が「通りすがりに人に悪口を言われる」、「家の壁越しに悪口を言われる」、「周囲の人が組織的に自分を追い詰めようとしている」などと訴える例は典型的である。また、幻味、幻嗅などは被毒妄想に結びつくことがある。
なお、体感幻覚に類似するものとして、体感症(cenestopathy)があるが、その異常感が常態ではみられない奇妙な性状のものであることをよくわきまえている点で、他のさまざまな体感幻覚とは異なる。
• 知覚過敏:音や匂いに敏感になる。光がとても眩しく感じる。
• 知覚変容発作:抗精神病薬の副作用からくる。
自我意識の障害
患者の自宅
自己と他者を区別することの障害である。一説に自己モニタリング機能の障害と言われている。すなわち、自己モニタリング機能が正常に作動している人であれば、空想時などに自己の脳の中で生じる内的な発声を外部からの音声だと知覚することはないが、この機能が障害されている場合、外部からの音声だと知覚して幻聴が生じることになる。音声に限らず、内的な思考を他者の考えと捉えると考想伝播につながり、ひいては「考えが盗聴される」などという被害妄想、関係妄想につながることになる。
• 考想操作(思考操作):他人の考えが入ってくると感じる。世の中には自分を容易に操作できる者がいる、心理的に操られている、と感じる。進むと、テレパシーで操られていると感じる。
• 考想奪取(思考奪取):自分の考えが他人に奪われていると感じる。自分の考えが何らかの力により奪われていると感じる。世の中には自らの考えがヒントになり、もっといい考えを出すものもいると感じる。進むと、脳に直接力がおよび考えが奪われていると感じる。
• 考想伝播(思考伝播):自分の考えが他人に伝わっていると感じる。世の中には洞察力の優れたものがいると感じる。その人に対して敏感になっている。進むとテレパシーを発信していると感じる。
• 自生思考(思考即迫):常に頭の中に何らかの考え・思考があり、うつ病患者の症例に多い「観念奔逸」と似て、思考がどんどん湧いてくる、思考が自らの意志でもっても抑えられない特有な思考の苦痛な異常状態をいう。これは、統合失調症の陽性症状の中でも最も深刻で重要な精神症状であるとされる。程度が重い患者では、頭の中が不自然な思考の熱状態で気がめいり、頭の中がとても騒がしく落ち着かないと訴え思える様な心理状態になる。
• 考想察知(思考察知):自分の考えは他人に知られていると感じる。世の中には自分の考えを言動から読めるものがいると感じる。進むと、自分は考えを知られてしまう特別な存在と感じる。自らのプライドを高く実際を認められずに、被害的にとらえてしまう。進むと、考想が自己と他者との間でテレパシーのように交信できるようになったと考え、波長が一致していると感じる。
• 強迫思考:自生思考と似て、ある考えを考えないと気が済まない、考えたくもない、あってはならない考えが不自然に浮かび上がり、他人に考えさせられていると感じられる様な尋常ではない状態をいう。中には、読書をする際に、「この部分を何回読まないと頭に記憶されない、覚えられない」といった内容の不合理な思考が瞬間的および随伴的に浮かぶ「文字強迫」などの症状が表面化されることもある。統合失調症の患者の中には、こうした抗不安薬などの服用でも効果および治癒率が低いとされる強迫性障害(旧名:強迫神経症)を発病当初から慢性的に同時に併せ持つ型の人もいるとされる。
行動や思考の変化
行動が無秩序かつ予測不可能となる。
• 興奮:妄想などにより有頂天になっている。意味もなく叫ぶ。また自分が神か神に近きものまたは天才と思い一種の極限状況にある場合もある。
• 昏迷:意識障害なしに何の言動もなく、外からの刺激や要求にさえ反応しない状態。統合失調症の場合は表情や姿態が冷たく硬い上、周囲との接触を拒絶反抗的であったり(拒絶症)、終始無言(無言症)、不自然な同じ姿勢をいつまでも続ける(常同姿態〈カタレプシー〉)。
• 拒食
陰性症状
陰性症状(Negative symptoms)とは、エネルギーの低下からおこる症状で、おおよそ消耗期に生じるもの。無表情、感情的アパシー、活動低下、会話の鈍化、社会的ひきこもり、自傷行為など。
陰性症状は、初回発症エピソードから数年以上継続しうえる。患者はこれらの陰性エピソードのために、家族や友人との関係にトラブルを招きやすい。
感情の障害
• 感情鈍麻:感情が平板化し、外部に現れない。
• 疎通性の障害:他人との心の通じあいがない。
• カタレプシー:受動的にとらされた姿勢をとりつづける。
• 緘黙:まったく口をきかない。
• 拒絶:面会を拒否する。
• 自閉:自己の内界に閉じ込もる。
思考の障害
• 常同的思考:無意味な思考にこだわり続けている。興味の対象が少数に限定されている。
• 抽象的思考の困難:物事を分類したり一般化することが困難である。問題解決においてかたくなで自己中心的。
意志・欲望の障害
• 自発性の低下:自分ひとりでは何もしようとせず、家事や身の回りのことにも自発性がない。
• 意欲低下:頭ではわかっていても行動に移せず、行動に移しても長続きしない。
• 無関心:世の中のこと、家族や友人のことなどにも無関心でよく知らない。
• 引きこもり:外出意欲の低下。
その他の症状
認知機能障害
認知機能障害は統合失調症の中核をなす基礎的障害である。クレペリンやブロイラーなどの当該疾患の定義の時代(1900年頃)より、統合失調症に特異的な症状群として最も注目されていた。認知機能とは、記憶力、注意・集中力などの基本的な知的能力から、計画・思考・判断・実行・問題解決などの複雑な知的能力をいう。この認知機能が障害されるため、社会活動全般に支障を来たし、疾患概念より障害概念に近いものとして理解されている。
この障害ゆえに、作業能力の低下、臨機応変な対処の困難、経験に基づく問題解決の困難、新しい環境に慣れにくい、発達障害患者の代表的な症状の一つとされるディスレクシア(読字障害、難読症)と似ていて、判断力・理解力・注意力の低下・散漫さから、本・文章・文字を理解して目で追って黙読したり、記憶・暗記したりすることが困難になる。
しばしば、読書が普通にできない、本・文章・文字を読んだ時に、そこに書かれている内容が瞬間的に一見して、ちらりと目には認知できうるが、本を読んでも全く頭に内容がスムーズに入ってゆかない、味わい咀嚼しながら理解・認識できないなどと訴えるなど、社会生活上多くの困難を伴い、長期のリハビリテーションが必要となる。
統合失調症が、慢性の脳細胞の機能性疾患・障害であると言われるのは、このためである。
感情の障害
不安感、焦燥感、緊張感、挑戦的行動が生じる。
抑うつ、不安を伴うこともある。自分には解決するのが非常に難しい問題が沢山あり、抑うつ、不安になっていることもある。抑うつは現状、将来を悲観するという場合と病名から来る自分のイメージ、他者の健常者や同じ心の病の者との比較からくる場合がある。一般的に、統合失調症の患者の中には、理性および感情面で、敏感と鈍感の共存状態に陥る例が多く認められると言われる。
躁状態:何でもできる気分、万能感、金遣いが荒くなる、睡眠時間が少ないなど。
パニック発作
統合失調症者はパニック障害類似のパニック発作が起こることがある。治療法はほぼパニック障害に準じる。
連合弛緩
連想が弱くなり、話の内容が度々変化してしまう。単語には連合がある。わかりやすく言えば単語の意味での関係でのグループ(連合)がある。この連合が弛緩して全然関係のない単語を連想することである。しかし落語にあるようなダジャレは連合弛緩でない。連想が関係を無視しているのである。
両価性
一つの物事に対して、両極端な感情を同時に持つこと。
独言・独笑
幻聴や妄想世界での会話である。原因には、長年の投薬による認知機能低下の説もある。
言葉のサラダ
ワードサラダとも呼ぶ。単語が並んでいるだけで正しい文章にならず、作語もある病状を指す。精神医学用語である。
原因
発病メカニズムは不明であり、明確な病因は未だに確定されておらず、いずれの報告も仮説の域を出ない。仮説は何百という多岐な数に及ぶため、特定的な原因の究明が非常に煩わしく困難であるのが、今日の精神医学の発達上の限界・壁である。
根本的な原因は不明であるが、遺伝要因が大きい。遺伝の影響度は研究によって異なるが、双子を用いた研究のメタ分析では遺伝率が81%と報告されている。ほか神経伝達物質のインバランス等の脳の代謝異常と、心理社会的なストレスなど環境因子の相互作用が発症の発端になると予想されている。心理社会的な因子としては、「ダブルバインド」や「HEE(高い感情表出家族)」などが注目されている。
家庭や学校が、歪んでいたりして、本人の意思や努力ではどうにもならないところで、不本意な想いをしていることが多く、それが発病のきっかけになっていることもよくあるという。生物学的な因子としては、妄想および幻覚症状は脳内の神経伝達物質の化学的不均衡であるという仮説が提唱されている。主にドーパミン拮抗薬である抗精神病薬の適量の投与によって、症状の抑制が可能であるとする理論であるが、大きな成功をおさめている仮説であるとまでは言えない。
薬物誘発性精神病の症状は、統合失調症の症状に酷似している、熟練した精神科医でも鑑別は困難とさる。症状は同様だが、薬物誘発性精神病は後天性で、統合失調症は遺伝性という点で異なる。
薬物誘発性精神病と統合失調症の区別が曖昧なため、薬物誘発性精神病モデルは、統合失調症モデルとして研究で頻用されている。
しかし、これが動物モデルとして理想的であるかどうかは決定されておらず、つまり、1)幻覚など陽性症状、2)平坦な感情など陰性症状、3)混乱した言語や非論理的という認知症状の、3種類の症状が統合失調症に特徴的であるが、アンフェタミンに誘発された精神病症状は陰性症状を明らかに誘発しないなど不完全であり、発症機序に関して別々であることは明らかである。DSM-5においては、薬物誘発性精神病は統合失調症と区別されており、統合失調症と異なり使用をやめると症状はおさまるものだと定義されている。